制動能力の計算

 

制動能力計算の公式例

こちらでは、所要制動力、制動能力、駐車制動能力、制動停止距離の算出方法をご紹介いたします。

この制動能力等に関する保安基準については こちら、審査事務規程については こちら

 

車輌のブレーキ関係に改造を施した場合に必要になってくるのがこの制動能力計算書となります。

似たようなものに制動装置の強度検討書というものがありますが、こちらはキャリパーを止めているボルトであったり、ブレーキ本体の強度であったりと機械的な強度を算出する方で、制動能力・性能の計算書は車輌に装着された状態での制動停止距離や制動力など、その性能に関する部分を計算するものです。

 

車輌は、その用途や車種によって必要となる制動力が決まってきます。

まずはその車輌に必要となる制動力を算出することから始まります。

 

車輌に必要となる制動力(所要制動力の算出)

所要制動力の算出には以下のデータが必要となります。

W  車両総重量  (㎏)

W1  車両重量    (㎏)

次に、改造を施した車輌が、いずれの車体に属するかによって、計算方法が異なっていきます。

係数が0.07の車両

普通トラック

係数が0.05の車両

乗用車、バス、トレーラ、小型トラック、

上記係数で改造を施した車輌がどちらの係数の適用となるかをまず判断し、回転部分相当重量 Wf を算出します。

Wf=W\times n ・・・n は上記係数

続いて所要制動力の算出となり、乗車定員が10人未満の乗用車の場合所要制動力 F は、

 F\geqq 0.65\times (W+Wf) の数値を満たすもの

と、なりそれ以外の車輌においては、

F\geqq 0.5\times (W+Wf) の数値を満たすもの

と、なります。

この数値は、kgf 単位で算出されておりますので、N(ニュートン)単位にする場合は、算出された数値に 9.806 を乗じてください。

これで、該当車両の基準となる所要制動力が算出されました。

 

主制動能力の算出

最近の車輌では、ディスクブレーキの装着車両が多くなってきておりますので、こちらでは油圧式ディスクブレーキの制動能力の算出について解説させていただきます。

ウエッジ式やカム式の伝達方式を持つものや、ドラムブレーキについては、スペースの関係により  取扱商品 お役立ちツール の項にてご紹介いたします。

 

まず、該当する車輌の制動力を発生させるための入力値を調べなくてはいけません。

これは保安基準の制動装置 細目告示に記載されております。

 

例えば、足動式のブレーキで運転者の操作力 F が 900N (約91,7kgf)とした場合、ブレーキペダルによって倍力される値 n を、その操作力に乗じてマスターシリンダーを押す力 F2 を算出します。

ブレーキペダルによって倍力される値 n は、(ペダルの支点からペダルの中心までの距離)/(ペダルの支点からマスターシリンダーを作用させるロッドなどの取付点までの距離) で算出します。

これによって算出された F2 をマスターシリンダーの 面積 A で除することにより、単位平方mmあたりの圧力が算出されます。

これはキャリパーのピストンや、ホイールシリンダーのピストンを押し広げる力となります。

 

ディスクブレーキの場合、キャリパーの片側にのみピストンが装着されているものと、ディスクを挟みこむように両側にピストンが装着されているものの二通りがあります。

前者を「片側2ポッドキャリパー」などと呼び、後者を「対向4ポッドキャリパー」などと呼ぶのですが、いずれの場合もまずはキャリパーに装着されるピストンの総面積 A2 を算出します。

?対向キャリパーの場合、この面積はそのまま使用できるのですが、片側のみにピストンを装着しているキャリパーの場合、通常はフローティング構造(キャリパーがディスク当たり面に対して垂直方向に動くことが出来る構造)となっているはずですので、算出された面積に 2 を乗じることとなります。

これによって算出された値を Ac とします。(片側キャリパーの Ac=2×A2 対向キャリパーの Ac = A2

先に算出された F2 に、この Ac を乗ずることによって、ディスクを挟む力 Fc が算出されます。

 

ただし、上記の Fc は単純にディスクを挟む力ですので、これをブレーキトルク T として算出しなければいけません。

 

これには、車軸の中心からパッドの中心までの距離 R2 を測定し、先に算出した Fc を乗ずることにより算出できますが、摩擦力 μ によりそのトルクは変化しますので、ここでは 0.4 という係数を使用して算出することとなります。?

つまり、T=R_2 \times Fc \times \mu となり、単位はkgで算出した場合は ㎏・mm、N で算出した場合は N・mmとなり、各寸法を mで算出した場合は、mm ⇒ m となります。

さらに、このブレーキトルクは一軸に対して一枚のディスクとして算出しておりますので、その軸の装着ブレーキ数が二箇所であればこのトルクも二倍されることとなり、自動二輪車などのダブルディスクの車輌も二倍されることとなります。

実際の制動力はタイヤを通して地面に対して伝達されますので、このトルクがタイヤに伝達された時点の制動力 B は、タイヤの有効半径 R に依存しており、同じブレーキトルクであった場合、タイヤ半径が小さければ制動力は上がり、逆に大きければ制動力は下がることとなります。

B= \frac{T}{R} となり、単位は kgf 又は N となります。

これがその車軸に装着される制動装置の制動力で、全車軸でその制動力を個々に計算し、全てを合算したものが総制動力となりますが、これはあくまでも計算値であり、静止状態やごく微速状態では軸重を上回る制動力は理論上発生させることが出来ず、計算上でその車輌の積車時軸重を超えるものは、その軸重が理論上の制動力となります。

全ての式を一つにまとめると、

 \displaystyle B= \frac{ \frac{ \frac{F \times n}{A} \times A_2}{R_2}}{R}

と、なりますが、これは理屈がわかれば算出するために公式などを覚える必要は無いため、まずはどうしてそうなるかを把握していただいたほうが良いかと思います。

続いてこの車両におけるロック時の所要制動力 BLを算出します。

BL は、車両総重量 W に路面摩擦係数 μrを乗じたもので、算出を N で行う場合は、更に重力加速度 g の 9.806 を乗じることとなります。(㎏で算出している場合は不要です)

B_L = \mu _r \times W (\times g )

これにより、先に算出している、B > F と、B > BLの両方が成り立てば、制動能力の基準は満足していることとなります。

 

駐車制動能力の算出

これは 1/5 勾配において、駐車ブレーキにより車輌の停止状態を保持できるかどうかということを判定します。

駐車ブレーキですので、必要となるデータは、空車時の車両重量 W1、制動トルク T’ 、タイヤの静荷重半径 R’ 、駐車ブレーキの個数 n となります。

制動トルクは、上記の制動能力項で算出した数値は使用することが出来ません。

通常、駐車ブレーキは、機械式で更に主ブレーキと別系統となっているため、油圧で算出された制動力は使用することが出来ず、上記制動力と同等の計算を再度行うこととなりますが、先に基本的な制動力の算出方法を解説しておりますので、こちらではあらためての算出は行いません。

また、タイヤ静荷重半径とは、車輌に装着された状態で停止状態における車軸中心から地面までの半径となります。

これより、タイヤ路面制動力 B’ は

 B\rq = \frac{T \rq}{R\rq} \times n

駐車ブレーキに必要な所要制動力  B0 

B_0 = W_1 \times \sin \theta _1 ( \times g)

この時、 \theta =\tan^-1 \frac{1}{5} = 11.31 °

\sin \theta = 0.1961 とします。

ここで、B > B0 であれば、駐車制動能力は基準を満足するということになります。

 

制動停止距離の算出

制動停止距離 S を算出するためには、以下のデータが必要となります。

制動力 F 、制動初速度 V 、車両総重量 W 、回転部分相当重量 W’ (本ページ中の所要制動力の算出で解説済みです)

制動力 F は上記の主制動力で算出された制動力、制動初速度 V は、車種ごとに数値が決まっており,

判定の基準も初速により異なりますので、制動装置  細目告示 を参照のこと。

S = \frac{V^2 \times ( W+W \rq ) ( \times g) }{254 \times F} + \frac {V}{36}

 

以上が、実際によく使用される制動能力の計算となります。

改造又は組立申請時にそのまま使用できるひな形を  取扱商品 お役立ちツールのページにアップロードしておきます。

 

 

 

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