もうすでに引張強度のことに関しては、強度検討書を作成するための考察 のページでも解説しておりますが、基本となる部分なので今回はちょっと掘り下げて話をしていこうと思います。
言葉では簡単に引っ張るという言われ方をされるケースが多いのですが、強度検討書を作成するにあたって、引っ張るという言葉 = 引張強度を算出すれば良い という簡単なものでは無いことをもうすでにお話しております。
例えばサイドブレーキのレバーを引っ張る場合、これはレバーに入力された力がワイヤーまで伝達されて初めて引っ張りの力になります。
駐車ブレーキレバーの部分では、ワイヤーにはブレーキを効かせようとするための抵抗がかかっており、それを力をかけて引っ張るわけですから、レバーそのものには曲げようとする力がかかっております。
また、引きバネなどという言われ方もしますが、無負荷状態で縮んでいるスプリングを引っ張った時も、スプリングにかかる応力は引張応力では無く、あとで解説させていただきます「ねじり」という応力となります。
上図は圧縮バネの場合ですが、これも圧縮と言われていても、コイルスプリングの線材が図のようにねじれて変形しているだけで、これを圧縮で考えようとすると、スプリングの素材が何であるかや各種サイズがわかったところで応力の算出のしようがありません。
ではなんで、引張強度なんてものが表示されているのでしょうか?
これはですね、例えば1mくらい長さの丸い棒を円形状に曲げることを想定してみてください。
長さは1mでしたが円形状にして外側の円周を計測すると、1mをわずかに超えています。
内側の円周は、外側の円周ほどの差はありませんが若干1mよりも短くなっているはずです。
間の言い方はもうすでにお分かりでしょうが、丸棒の芯にある本来の中心線よりも若干内側(円形状に加工する際の中心側)の位置を中心に外側は伸びているんです。
ではなんで伸びているのでしょうか?そうです、引っ張られているから伸びたんです。
逆に内側は圧縮されたため縮んでしまいました。
ではせん断の場合はどうでしょうか?
ボルトを例にとってせん断の場合を考えてみましょう。
せん断が起きる部分を頭のなかでものすごく拡大して、せん断が起きるその瞬間を想像してみてください。
こういう言い方をすると苦情が来るかもしれませんが、外側だけでなく断面のすべての部分において、今度は斜め横方向に引っ張られていますよね?
感覚として理解してください。
では ねじりはどうでしょうか?
例えば全長が1mのトーションバーを水平な床の上に置いて、無負荷状態の時に下図の赤い線を引いた位置に直線を書いたとします。
図では40°程度しか ねじっていないためわかりづらいかもしれませんが、例えば180° ねじった場合、赤い線は1mを超えているはずです。
何故1m以上あるのでしょうか? そうです、伸びたからなんです。
座屈については、後で説明しますが、長い棒を両端から中心に力をかけて行くと、曲げで破壊されたように棒の途中から折れ曲がるのが座屈ですが、この場合は曲げと同じで折れ曲がった外周側は、本来の長さより長くなっていますよね?
圧縮も同様です。
先の説明で、金属 = 固い というイメージを取り払ってくださいと申しましたが、まさにその考え方で行くとわかりやすいです。
例えばバンプストッパーのようなゴムの塊、例えば50mm四方のサイコロ形状としましょう、これの高さと幅、奥行きのいずれも中間地点(25mmの位置)に線を引き、更にこの直方体の上から10㎏、20㎏・・・と徐々に重量をかけていったとします。
50mmの直方体ですから、見えている線の長さは全て50mmのはずですが、仮に1000㎏くらいの重量をかけた時にはどうなっているでしょうか?
やったことはありませんが、中のゴムが横方向(外周方向)に逃げているため、50mmを超えていることが想像できます。
これも伸びているからですよね?
いずれの場合も、中心付近ではそれほど伸びていなくても、外周付近が伸びているということに気づかれたのでは無いでしょうか?
関連した話として、長さ、重量、材質が同じであれば、(中実の棒よりも)パイプのほうが強いという話を聞いたことありませんか?
これは中心軸から外側に行くほど変形が大きくなるということから、同じ重量であればパイプのほうが外径、又は外寸が大きくなり、その部分を変形させるためにはより大きな力が必要となるためモーメントや荷重に対して有利になるためです。
そういえば、曲げについて のページでもなんか同じようなことを聞いていませんでしたか?
そうです、断面係数というのはモーメントに抵抗するための抵抗力を表したようなものと言いました。
簡単に話してしまいますと、断面2次モーメント(今は考えなくていいです)を、断面の中心点(この言葉も苦情が来そうですが・・・正確には図心と言って断面の重心位置のことです)上端、下端、左端、右端までの距離で除したものが断面係数となるんです。
そのため、左右対称な形状の場合は横方向の断面係数は Zy1 も Zy2 も同じ数値となり、更に上下が対称なものは上下方向の断面係数 Zχ1 も Zχ2 も同じになります。
上下左右が同じ丸パイプや丸棒、正方形断面のパイプや角棒はこのことから断面係数は全て同じになりますが、L型アングルなどは上下方向、左右方向の使い方で、断面係数が全て異なります。(この事についても 曲げについて のページで軽く触れておりました)
今はまだ、一般的な形状の場合は公式で、複雑な形状であってもフリーのプログラムで断面係数は算出できますので、それほど熱心に覚える必要はないかと思います。
そんな話もありました・・・程度で良いかと思います。
かなり横道にそれてしまいましたが、このように引っ張りというのは全ての強度検討書に絡んできますので、様々な材料においても引張強度が記されているのではないかと思います。
ついでに復習しますと、引張応力の算出はその部品にかかる 荷重値 F を、その部品の断面積 A で除したものが、引っ張り応力 σ となります。
引張応力が算出されれば、あとは材料の 引張強度と降伏点から安全率を算出するのは、 曲げについて のページでもやっておりますので、説明するまでも無いでしょう。
以上が、引張についての雑学的な説明です。
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