曲げについて

 

ここからは、単純に計算の方法だけでは無く、実際の部品や身の周りにある物などを例に取って外的荷重の見分け方などについても説明していきたいと思います。

まずはこちら。

2StrictPull-Up


口うるさい人のために予め申し上げておきますと、この場合鉄棒の片側は固定されておらず、差し込まれているだけのものと仮定します。

 

では、鉄棒のスパンが共に 2500mm 、ぶら下がっている人は 80㎏ 、ぶら下がっている人の位置は、左側の方が向かって左から 700mm の地点、右側の方はスパンの中心にぶら下がって居るとします。?

 

右の鉄棒も左の鉄棒も、「曲げ」という外的荷重がかかっているのは簡単に理解できるかと思います。

圧縮(座屈)のページで説明することとなりますが、鉄棒を支えている柱には、圧縮(座屈)の力がかかります。

 

この時、鉄棒の重さを無いものとして、右側の鉄棒の左右の柱にかかる重量は、両方共40㎏づつだということは容易に想像がつくことと思います。

では、左側の鉄棒の場合はどうでしょうか。

雰囲気的に向かって左側に寄っているから、左側の方に多く重量がかかっているような気がすると思います。

 

まさしくその通りで、向かって右側の柱にかかる重量を Rr、 左側にかかる重量を Rl とすると、柱に掛かる重量は、それぞれ以下の計算で算出されます。

Rr(右側の柱) = 左側の柱から荷重点までの距離×重量/スパン = 700mm×80/2500 = 22.4㎏

Rl(左側の柱) = 右側の柱から荷重点までの距離×重量/スパン、又は 重量-Rr でも同じで、= 57.6㎏

と、なります。

注意していただきたいのは、右側の重量を算出する時は左側の柱から荷重点までの距離を乗じ、左側の重量算出の時は右側の柱から荷重点までの距離を乗じるということです。

この算出された数値は実は反力と言われるもので、力がかかる方向が反対(荷重が下向きの力であることに対して、反力は上向き)であるため、荷重を正(+)とするならば、反力は負(-)で表示されます。

これにより、荷重値 + 反力値の合計 = 0となり、釣り合っていると定義されます。

 

続いて、かかっている荷重が同じで、鉄棒の材料も寸法も同じだから、安全率も同じなのでしょうか?

 

答えは No です。

 

これには、曲げモーメントという、物体を曲げようとする時に働く回す力と密接な関係があり、鉄棒を梁として柱で支えられている部分を支点とすると、両端で支持されている梁ということになり、この場合荷重点が中心にあるときにその曲げモーメントが最大となります。

荷重を W 、荷重点から左側支点までの距離を a 、荷重点から右側支点までの距離を b 、右側と左側の支点間距離を L とすると、荷重点に働く曲げモーメント M は、

M = ( W × a × b )/ L

で算出されます。

これより、左側の鉄棒にかかる曲げモーメントは

M = ( 80×700×1800)/2500 = 40320 kg・mm

右側の鉄棒にかかる曲げモーメントは

M = ( 80×1250×1250)/2500 = 50000 kg・mm

となります。

 

モーメントが算出されたなら、次は断面係数 Z を算出します。

断面係数というのは、曲げモーメントに対してその部材の断面の形状がどの程度持ちこたえることが出来るかという、いわば抵抗力のようなものです。

これは、形状によって公式が与えられており、同じ断面形状であったとしても、かかる力の向きによってや、部材の使用する向きなどに寄って断面係数が変化する場合もありますが、今回は鉄棒で断面形状は力の向きにかかわらず一定ですので、この説明は次回ということにして話を進めていきます。

形状ごとの断面係数の算出は 計算用公式集 を参照

?鉄棒の直径 D が30mmの丸棒であったとした場合の断面係数は、

Z = π×D3/32 = π×303/32 =2650.71 mm3

となり、曲げモーメントと、断面係数が算出されたことによって、曲げ応力 σ の算出が可能となります。

σ = M/Z = 40320/2650.71 = 15.21 ㎏/mm2 ・・・左側の鉄棒の曲げ応力

σ = M/Z = 50000/2650.71 = 18.86 ㎏/mm2 ・・・右側の鉄棒の曲げ応力

曲げ応力まで算出されましたら、強度検討書を作成するための考察 ページで説明したのと同様に、安全率の算出が可能となります。

 

ここで使用されている材質を 前回と同様に SS400 で算出するとすると、

SS400  引張強度 40.79㎏/mm2   降伏点 24.98㎏/mm2 

であるため、

fb = 引張強度 /σ = 40.79/15.21 = 2.68

fr = 降伏点 / σ = 24.98/15.21 = 1.64   ・・・左側の鉄棒の場合

?

fb = 引張強度 /σ = 40.79/18.86 = 2.16

fr = 降伏点 / σ = 24.98/18.86 = 1.32   ・・・右側の鉄棒の場合

となり、破壊安全率を1.6以上、降伏安全率を1.3以上とした場合、双方とも強度は満たしていますが、右側の方がより鉄棒破損の事故に近いという結果となります。

 

このように、全く同じ素材で同じ形状のものであっても、荷重の掛かる位置によっては安全率が変化するということを理解してください。

 

続いて、片側だけで支持される梁の場合を考察します。

こういう場合です。

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飛び込み板の固定端から先端までの長さが 4.5m 、男性が立っている場所が 3.1m 、男性の体重が 85㎏として、飛び込み板の断面係数は 12000mm3 とします。

このような形状の梁を「片持ち梁」と言い、鉄棒がモデルとなった両端支持の梁とは異なり、最大曲げモーメントはその固定端で発生します。

この場合の曲げモーメント M は、荷重値 W と固定端(支持部)から荷重点までの距離 L で算出します。

M = W × L = 85㎏ × 3100mm = 263500 ㎏・mm  ・・・現在地

M = W × L = 85㎏ × 4500mm = 382500 ㎏・mm  ・・・先端まで行った場合

断面係数は、12000mm3ですので、応力 σ は、

σ = M/Z = 263500/12000 = 21.95 ㎏/mm2  ・・・現在地

σ = M/Z = 382500/12000 = 31.87 ㎏/mm2  ・・・先端まで行った場合

?ここで材料のFRPの引張強度と降伏点を、それぞれ 350N/mm2 と  200N/mm2 とすると、安全率は、

fb = 引張強度 /σ = 40.79/21.95 = 1.85

fr = 降伏点 / σ = 24.98/21.95 = 1.13   ・・・現在地

?

fb = 引張強度 /σ = 40.79/31.87 = 1.27

fr = 降伏点 / σ = 24.98/31.87 = 0.78   ・・・先端まで行った場合

となり、現在地ではかろうじて塑性変形にもこらえて現状の形をキープしているところですが、安全率は満たしておらず、また先端に関しましては破断までには行きませんが安全率には及ばず、塑性変形に関しては 0.78 と 1 を下回っておりますので、先端に行った時点でもう塑性変形が始まっていることとなります。

もしかすると、先端にたどり着くことが出来ないか、飛び込むための反動をつけた時点で間違いなく折れるのでは無いでしょうか?

 

このように、材料の強度、断面係数、また梁となる構造物の長さや荷重点を見極めることによって、どのくらいの安全マージンがあるかを判断することができるのです。

 

最後に下の写真を見てください。

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これは、浴室に取り付けられたガラス製引き扉の取っ手ですが、この取っ手の部分も中央を持って引くことにより、曲げの力が働くこととなります。

ガラスと垂直になっている固定部分付近では引張の力に変わりますが、メインとなる取っ手の部分は先に解説した鉄棒がただ横向きになって付いているのと変わりません。

そのため、呼び方などに惑わされずに各部分を全体図としてでは無く、パーツごとに区切って考えることが出来るようになれば、強度検討書を作成するための考察力は上がっていくことと思われます。

 

金属は硬いものという考え方を捨てて、実はとっても柔らかい粘土のようなもので出来ていると考えてみてもわかりやすいかもしれません。

 

以上で、曲げに関する解説を終了させていただきます。

 

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- 強度検討書等を作成するための考察

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